こんにちは。

飯田橋のカウンセリングオフィス、サードプレイスのナカヤマです。

 

何年か前、アメリカのトラウマティックストレス学会で、PE(トラウマのための認知行動療法の一つです)にあからさまな嫌悪感を示したヴァン・デア・コーク(トラウマ治療の第一人者)にフォア(これまたトラウマ治療の第一人者でPEの開発者)が「PEにはこれだけのエビデンスがあるのにそれを認めないなんて、バカめが」みたいなことを言って、あわやつかみ合いになりかけた、みたいなちょっと笑ってしまうような話がありました。

ヴァン・デア・コーク先生はトラウマの治療の中では「EMDR推し」で、TFT(身体をごく優しく二本指でトントンとタッピングするリラクゼーション法)やヨガなど、身体からトラウマにアクセスする方法に関心があり、『身体はトラウマを記憶する』などをはじめ、多くのトラウマ関連の学術書を執筆されています。

先生は2011年に来日され、明治大学などで講演されたのですが(その当時、福島の原発事故の影響で来日を控える外国人が多い中でのことでしたので、ヴァン・デア・コーク先生のマゴコロというか、勇気に感銘を覚えました)、そこでもPEを揶揄して、「性急なトラウマ体験の言語化はかえってトラウマを深くする」と述べて、「呼吸やヨガ、タッピング、遊びなどこそが、自分で自分をコントロールする体験であり、回復につながるものである」と胸を張っていました。

どうやら本当にPEのことが嫌いそうなその様子に、むしろ愉快な気持ちになったくらいです。

PEでは決して性急に、もしくは無理やりトラウマを語らせたりしないし、むしろトラウマを(自分の身体を使って)語るということや、行動してみることで、自分自身の体感や実感を基盤にして回復する感じ、ヴァン・デア・コーク先生のいう「自分をコントロールする体験」と一緒なんだけどなぁと思ったりしています。

一方で、PEのセラピストの中でもEMDRについて、警戒心めいたものを持っている人がいます。すなわち、EMDRは記憶の処理の一つに眼球を左右に動かす、という手続きがあるのですが、あれがどうも幻惑的に見えるようで(実際、例のコインを左右に揺らす昭和の催眠術を彷彿とさせる動きであるのは否めないのですが)「あれがどういう機制でトラウマに効いているのかさっぱりわからないし、意味がないんじゃないか」という人もいます。

しかし臨床上では、大事な場面で、つまりその話題がその人の心の奥深くに実はつながっていて、それをなんとか言語化しようと奮闘している場面で、彼女、もしくは彼の目が左右、または斜め上下に忙しく、まるで床に置いた長持ちの中のあちらこちらをひっくり返しながらなにかを探しているかのように、動くのを見ることがあります。

その目の動きをみると、あの例の、目を左右に動かすEMDRと重なるものがあり、あの手続きは、まだ科学的な根拠がはっきりしないながらも、あながち的外れではないような感じがしています。

ちょっと話がそれましたが、PEをかたくなに拒否するヴァン・デア・コーク先生は、なんとなく感情的、というか、「食わず嫌い」のようにみえたのです。

 

私の知り合いに大変優れた保育士さんがいるのですが、彼女がいうには子どもの多くは、はじめからはブロッコリーを好まないそうです。しかし、大人としては、栄養価に富んだ、経済的にも優秀なブロッコリーを是非食べさせたいところですので、保育園では子どもの食わず嫌いを治そうと色々工夫することになります。

彼女によると、子どもにブロッコリーの栄養なんかについてこんこんと言い聞かせて説得しようとしても大抵は時間の無駄で、ましてや細かく刻んでハンバーグに入れたりする「ダマシ討ち」はさらに意味がない、とのことでした。それでは実際、彼女がどうしているかというと、子どもにブロッコリーは身体に良いということをさらりと述べた後は、食事の折々にブロッコリーのお皿をテーブルに載せておき、周りの大人や首尾よくブロッコリーが食べれるようになった年長の子どもたちが美味しくつまむのを見せるのだそうです。そうするといつの日か、子どもが自ら手を伸ばしてブロッコリーを取る日が来るのだ、と教えてくれました。

「食わず嫌いを治すコツは、」と彼女は話しました。「いつか必ず自分から手を伸ばしてブロッコリーを食べるようになる、と信じることなんです」。

 

いえいえ、あのフォア先生に信じて待てとは言ってませんよ。そんなオソレオオイこと、とてもとても。

 

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ではまた!

サードプレイス

 

 

 

 

 

投稿: 飯田橋 サードプレイス

東京千代田区飯田橋にあるカウンセリングルーム、サードプレイスのブログです。

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