こんにちは。

飯田橋のカウンセリングオフィス、サードプレイスのナカヤマです。

 

「虐待の世代間連鎖」という言葉を知っていますか。

大雑把にいうと、虐待されて育った子どもが長じて親となったときに、自分の子どもを虐待してしまう現象、のことを指します。

このような現象が起こりやすいということは、データからも報告されており、この現象に対する心理学的な説明も、トラウマ理論や愛着理論などの上で試みられています。

 

私がまだ若くて臨床心理士になる前のこと、シェルター機能をもつ行政機関で働いていたことがあります。いわゆる福祉分野でしたので、DVや虐待、貧困などの報告を耳にすることは日常茶飯事で、どうしたらいいか的な会議や研修会なんかも開かれたりします。

そういった場面で、DVや虐待の事例にどう対処するか、などのテーマでの話し合いや討論になると、たびたび行き止まり状態に突き当たったものでした。

「結局は」ある行政の人はいいます。「今虐待しているその母親だって、子どもだった時に虐待されていて、その時から問題は続いているんだ」。「今どうこうしようたって今さらどうしようもない」。

「育てなおしが必要だ」という人もいます。それに対して「誰が育てなおしするんだ」という意見があります。「だいたい育てなおしなんて、そんなん言っていること自体傲慢だ」と反対する人もいます。

そんな風にして会議は、無力感とも怒りともつかない、どう形容していいかわからないような感情が渦巻き、結局は不完全燃焼のまま時間切れになるのです。

こうして私たちはしばしば「世代間連鎖」という言葉のくびきから逃れられなくなってしまっていたのでした。

この言葉に文字通り、鎖につながれたように縛られている当事者もいます。自分が虐待を受けてきたために、親になってから適切な子育てができていないのではないかと極度に不安になっている人たちです。精神科医やカウンセラーたちはこの言葉を様々な場面や媒体で多用してきました。そのため、それは今や呪いのようになっている面もあります。

でも、どんな傾向があっても、そこには例外だったり、その流れってものに反することはあるものです。

パトナム先生はその辺をよくわかっていました。

すなわちパトナム先生は、「虐待を受けて育ちながらも、自分が親になって適切な子育てをしている人たち」の存在に目を向けたのです。そうして、そうなるには何が良かったのかを丁寧に調査しました。例えば、その人の知的な能力とか、仕事をしているとか、そのような要因がどれだけ被虐経験からの回復に効果があったのかなどを調べてみたのです。

その調査の結果、唯一効果があるとされたのは、「自分の虐待された経験をだれかに話す」というものでした。パトナム先生がいうのには、このだれかに話すという「だれか」は、別にセラピストである必要はなく(ここで自分たちの役割を常に探している、欲深い私たちセラピストは嘆息したものです)、ごく普通の隣人や友人であればよい、とのことでした。

パトナム先生はこの調査を受けて、アメリカのシンシナティで赤ちゃんが生まれた家庭を対象に、絵本を届けるボランティア派遣のプロジェクトをはじめました。お母さんがボランティアと普通に会話する中で、もしかしたら自分の被虐経験を話す機会も増えることが、トラウマの回復に促進的に働き、適切な子育てにつながる、と考えたわけです。

 

一方で、親になるばかりが人生ではありません。

自分の被虐体験をどう受け止めて、どう答えを出していくのかは人それそれぞれです。親になることを選ばずに「自分で自分を育てなおししている」と話した元大学教授の田嶋陽子さんや、「自分自身をしつけて生きる」と語った漫画家の槇村さとるさんのような処し方もあります。

 

そして、今の私が昔の私に助言できることは、「できていないところではなく、できているところをみてみる」ということです。ポジティブな側面はいつだって何かしらのパワーを生みだすってことを忘れてはいけません。

●パトナム先生の素敵な子育て☞こちら

 

ではまた!

サードプレイス

 

不明 のアバター

投稿: 飯田橋 サードプレイス

東京千代田区飯田橋にあるカウンセリングルーム、サードプレイスのブログです。

コメントを残す