こんにちは。

飯田橋のカウンセリングオフィス、サードプレイスのナカヤマです。

 

「対人関係スキーマ」とは複雑性PTSDに対するスキルトレーニング(STAIR)の中に出てくる用語の一つです。この耳慣れない用語と心理療法について、今日は少し。

人は、生まれついての「素質」みたいなのと、生まれてからの「環境」みたいなものの2つの要因の相互作用の中で成長していくといわれています。よく言われる「氏か育ちか」というやつですが、対人関係のスタイルは、「育ち」、つまり「環境」の要因が大きいものの一つです。

すなわち、心理学的には、対人関係は身近な人(アタッチメントの対象、というともっとそれらしく聞こえますね)とのやりとりを通じて「学習」していくものとされています。

私たちは生まれてからすぐに、養育者との関わりから人間関係のコツというものを学びはじめます。養育者の性格や行動はそれぞれ違います。ある人は赤ちゃんが泣いたらすぐに抱っこするタイプかもしれませんし、またある人は、泣いている赤ちゃんにさほどストレスを感じずにしばらく放っておいて他のこと、例えば家事などを片付けたいタイプかもしれません。子どもは養育者のそのような反応を通して、「泣いたら抱っこしてくれるんだな→だから抱っこしてほしければ泣こう」とか、または、(ちょっと悲壮な感じに聞こえるかもしれませんが)「泣いてもしばらくはベッドに置いておかれるんだな→だからしばらく我慢しよう」ってことなんかを学ぶのです。

でも、この「学習」は頭でするものではありません。身体や感情などもっと深いところで刻み込まれるというか、しっかり身に付いていくものです。そのため大人になってもこの基本的な対人関係のスタイルは続いていますし、意識していない時には特に出やすくなるものです。

 

では、トラウマ的な出来事となる子ども時代の虐待の体験からは、人はどんな対人関係を学ぶでしょうか。

虐待的な環境下では、子どものアタッチメントの対象である養育者がしばしば加害者なので、子どもは混乱しながらも、自分の身を守るために加害者との対人関係をなんとかうまく構築しなければなりません。

つまり、「もし自分が口答えすると、相手は罰を下すだろう」とか「(自分の感情を抑えて)とにかくいい子にしていれば、何事も起こらない」「泣いたらもっと殴られる、(だから泣いてはいけない)」など、加害者との対人関係のコツを学んで生き延びるのです。そして、これらの「コツ」は失敗すると自分の安全が大きく損なわれるようなものなので、そこには不安や恐怖が楔のように打ち込まれたような構造になっています。

対人関係スキーマは、このように、対人関係にまつわる恐怖などの極端な感情と考え方、それに伴う行動様式すべてをまとめて指したものです。

STAIRのセッションではまず、その人固有の対人関係スキーマがどんなものなのか、セラピストと一緒に見つけだす作業をします。そしてその対人関係スキーマが、現在の対人関係で役に立っていなかったりする場合(しばしば邪魔になっていることもあるのですが)、対人関係の在り方を少しづつ修正したりしながら、ロールプレイなどで練習して、新しい人との関わり方を身につけていくのです。

「ロールプレイをする」と聞くと、間違いなくほぼ全員が気がすすまないような顔色になるのですが、実際にやってみると、たくさんのことを学んでスッキリした明るいお顔で帰っていかれます。なので、ロールプレイは是非やってみる価値がありますよって強く(セラピストらしからぬ)お勧めをしています。

 

それにしても、ここまで書いてきて何なんですが、「対人関係スキーマ」って用語、わかりにくいと思いませんか。

昨年に来日したSTAIRを開発した当人であるクロアトル先生自身も、「グループでは対人関係パターンって言うようにしているの、だってあの人たち全然理解しようとしないんだもの」とちょっと愚痴半分あきらめ半分で言っていたくらいでした(先生はアメリカ退役軍人局で退役軍人を対象にしたグループSTAIRの効果研究を実施しています)。

この用語の説明をすることにいつもふぅふぅ言ってたセラピスト(私か)や、何度聞いてもイマイチ腑に落ちないってアタマをひねっていた人々にとって、クロワトル先生のこのコメントにはもはや共感しかありません。

 

ではまた!

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サードプレイス

投稿: 飯田橋 サードプレイス

東京千代田区飯田橋にあるカウンセリングルーム、サードプレイスのブログです。

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