こんにちは。
飯田橋のカウンセリングオフィス、サードプレイスのナカヤマです。
安野光雅さんという画家がいます。安野さんの、水彩絵の具を使った淡い色調ながら、細部まで描きこまれた美しくて楽しい世界は多くの絵本になっています。
子どものころから『ふしぎなえ』の虜だった私にとって、安野さんはいつも身近に感じる、叔父さんのような存在でした。
そんな安野さんがNHKかなんかの旅紀行のようなもの(もうずいぶんと前のことなので、記憶も曖昧ですが)に出演していました。そこはヨーロッパのどこかの町で、その晴れた明るい街並みを安野さん自らがスケッチをするシーンです。
私が茶の間に座ってぼんやりとテレビの中の安野さんの手元を眺めているあいだに、安野さんの手はさささっと動いて、ブラウン管に映ったその風景を巧みにキャンバスに写し取っていきます。あっという間に、水彩ならではのあたたかい色合いの街並みがキャンバスの上に現れました。
「すごい、完璧だ」と私が目を見張っていたところに、安野さんがつと絵筆を取り、黒い絵の具を、その街並みの影になる部分に(いささかぞんざいに)のせはじめました。あまりの展開に私はドキドキしました。この明るい、淡い色の絵が、黒い絵の具を落とすことで台無しにになってしまうことを恐れたからです。
でも、安野さんが黒々とした影をキャンバスにのせていく度、絵の中の街並みは、その明るさを増してさえわたりました。
人生について語るとき、そこにはいつもトラウマの影があります。その影はあまりにも暗く、怖いので、私たちはそれを見ないようにしたり、もしくは薄目にしてよく見ようとはしません。そうやってその影がぼんやりしているうちは、私たちの人生全体もなんだかぼんやりとしています。
でもある日、勇気を出して、その黒々とした影にしっかり目を向けて表現すると、何が起きるでしょう。
影ではなく、光が増すのです。
その光は、安心感だったり、自分自身の強さだったり、または物事のもう一つの側面、ポジティブな側面であったり、人によって違うものですが、影をしっかりと捉えた時、光はいつも現れてきます。
なんのためらいもなく筆を走らせた安野さんは、影が濃くなることで光が輝くことを当然、知っていたのでしょう。
安野さんが黒い絵の具をキャンバスの載せるときにふと「光が強いな」と呟いたのを覚えています。
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ではまた!