こんにちは。

飯田橋のカウンセリングオフィス、サードプレイスのナカヤマです。

今日の大半は、いささか落ち込んだ気持ちで過ごしました。というのも、今朝家を出て電車に乗っている途中で、いつも持っているメインのカバンを丸ごと忘れていることに気がついたからです。そのカバンには手帳やオフィスの鍵、お財布その他もろもろ仕事に必要なもの全てが入っています。いわば、小学生がランドセルを丸ごと家に置いて学校にきてしまったような衝撃です。

それなので今日は、いつも予約を記入している手帳なしでセッションを行わなければなりませんでした。患者さんたちにもわけを話して、大体この日この時間は空いてそうなところに見当をつけて次の予約をいれたのですが、家に帰ってから手帳を確認したところ、その見当がことごとく外れたことがわかり、メールで予約を取りなおしするハメになりました。

こういった出来事で自分が凹んでいるときには「認知行動療法」の出番です。認知行動療法とは、ある出来事でネガティブな気分になっているときに、その気分を醸し出す元となっている考え方を見つけ出して、考えなおしする作業です。そうすることで気分が上向く、もしくはマシになることを目指しています。

今回のカバン丸ごと忘れ事件で落ち込んでいる私にはうってつけの方法と言えます。

 

精神科での保険適用をはじめ、看護や教育など、今ではいろんな分野に普及している「認知行動療法」ですが、私がそのエッセンスのようなものに触れたのは実に40年以上前のことでした。

というのも、当時小学3年生だった私は大いに凹んでいたからです。当時の担任は女性の初老になりかけといったところのベテラン先生でしたが、陰険な性格で、子どもたちが忘れ物をすると教室の壁に貼ってある模造紙にシールを貼りつけていくのです。模造紙は横軸に子どもの名前、縦軸が忘れ物の数、というグラフになっており、忘れ物をしてシールが貼られる度に、縦軸が少しずつ伸びていくという仕組みです。当時から忘れ物クイーンであった私の縦軸の高さは他の子どもたちよりも群を抜いて飛び出ており、それはもう明らかで隠しようもなく、私は恥の感情で消え入りそうな気分になることもしばしばでした。

子どもの私は、壁の縦軸を見るたびに自分を責めていました。「どうして他の子どもみたいにちゃんとできないんだろう」「頭のどこかがおかしいに違いない」そういう思いが頭の中を巡っていたのです。

そういう私の様子を見かねてか、母が声をかけてきました。

母は出所不明の威厳を持つ女性でしたが、その時の、湯上りのパジャマの上にベロアの赤い長ガウンを着て、背筋を伸ばしてソファーに座っている姿は一層女王然として見えました。その母が私に、おもむろに口を開いて、

「あなたはどうして忘れ物をするんだと思う?」と尋ねたのです。

 

このような質問の仕方は、認知行動療法では「ソクラテス質問法」とも呼ばれていて、患者さんがあらためて自分の考えを考え直しができるように、セラピストは答えの見当がつきつつも敢えて問いかける類の質問ですが、この時の私にもてきめんな効き目がありました。今まで考えもしなかったことを尋ねられて、私の頭が猛烈にまわり始めたからです。

でも子どもだった私の頭は、気の利いた答えがパッと思い浮かぶわけもなく、再び考え込んでしまいました。

短気な母はすぐに焦れて、答えを言い放ちました(ここはセラピストと違うところです)。

「他の子が忘れ物をしないのは、その子たちのお母さんが明日持っていくものをちゃんと確認しているからよ」

それを聞いて、そうか、他の子どもたちの忘れ物が少ないわけはそういうことだったんだ、みんなはちゃんとお母さんが確認していたからなんだ、私のせいじゃない!と視界が開けて心が軽くなったのと同時に、私の母はなぜそこまでわかっているのに他のお母さんのようにしてくれないのだろう、と至極もっともな疑問も出てきましたが、目の前で「いいこと言ってやった」とばかりにドヤ顔をしている母に楯突く自信はありませんでした。

母がなぜ忘れ物を確認してくれなかったのか、今では知る由もありませんが(面倒臭かったのでしょうか)、そのやりとりを経て、私は相変わらず忘れ物をしつつも、自分を責めることは減ったような気がしています。

 

さて、オトナになって久しぶりに大きな忘れ物をして落ち込んでいる私にはどんな考え直しができたでしょうか。

答えはその日の最後のセッションにきた年若い女性の患者さんからもたらされました。彼女は私が手帳を忘れたということを聞くと、ちょっとびっくりした顔をしましたが、でも、すぐに笑いながら「じゃあ、むしろすっきりさっぱりしたものですね!」と返してくれました。

その気の利いた答えに笑えたとき、私の落ち込みは随分軽くなっていたと思います。

それに確かに帰り道は、いつもより荷物が軽くていい気分でしたよ。

 

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ではまた!

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投稿: 飯田橋 サードプレイス

東京千代田区飯田橋にあるカウンセリングルーム、サードプレイスのブログです。

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