こんにちは。

飯田橋のカウンセリングオフィス、サードプレイスのナカヤマです。

 

「フラッシュ・バック(侵入症状)があればPE(PTSDのための心理療法。その治療成績が群を抜いて優れていることは数々の研究で明らかになっています)ができる」とフォア先生は言いました。

 

PTSDの症状は4つあります。その一つに侵入症状(フラッシュ・バック)があります。

侵入症状とは、トラウマを受けた後でそのトラウマが自分の中で再体験されることです。フラッシュ・バックはその症状の形の一つで、出来事の一部がありありとした映像として頭に中に飛び込んできたように体験されることです。その程度が強烈だと、まるでその当時に全く戻ってしまったかのように感じるほど(「タイムスリップしたようだ」と表現する人もいます)リアルに当時の匂いや音、身体の感覚を体験することもあるし、そこまでではなくても、その出来事を思い出して一瞬身体が緊張したり、ドキドキするようなこともあります。トラウマ的な出来事を連想させるきっかけや引き金が、動悸や発汗、または強い感情的な動揺を呼び起こしたりします。例えば、DV被害にあった女性がその加害者である夫と似たような服装(スーツ姿、または作業着など)の男性を目にしたことがきっかけで、フラッシュ・バックを引き起こしたりすることがあげられます(それにしても男性の服装は似たようなものが多くて困ります)。

侵入症状の他の形としては出来事に関する生々しい悪夢があります。夢の中で起きている出来事はトラウマに関連したことで、本人はその中で強い感情的な体験をしていたり、身体的な反応を感じます。夢から覚めた後も、ドキドキしていたり、呼吸が荒くなっていたり、一瞬夢なのか、実際に起きていたのか混乱するようなときもあります。

トラウマ的出来事に関連しているとはっきりわかるフラッシュ・バックがあれば、PEによってそのPTSDなどの苦痛な症状が回復する可能性は非常に高いと私も考えます。

 

一方、記憶の作用の難しいところですが、はっきりわかるフラッシュ・バックがない人もいます。そういう人のフラッシュ・バックは、例えばある特定の場所で非常に不吉な感覚に襲われたり、また人の関係の中で、ある特定にフレーズに対して感情が大きく動揺したり、落ち込んだりするような体験です。

このようなフラッシュ・バック(と呼んでいいのであれば)は、いくつかの理由が考えられます。

一つには過去の出来事が本人にとってあまりに強烈すぎて、その記憶を切り離している場合です。ある通り魔事件の被害者は、事件後その記憶をすっぽりなくしていました(いわゆる健忘です)が、事件現場の近くを通りかかるたびに、身体が重くなり、すごい量の汗をかくので、てっきりなにかの霊の仕業と思い、お祓いにまで行ったそうです(霊媒師は幸いにして良い霊媒師で、たまたま事件のことも報道で知っており、そのことを本人に伝えてくれました)。

また、出来事が日常的に何度も起きているので、感情の起伏が乏しくなり、まさかその出来事が自分にとって重荷であったと気がついていなかった、ということもあります。ある女性は友人同士の会話の中で時折交わされるたしなめ言葉(「だめねぇ」とか「なにいってるの」という冗談めかした言葉)やある表情(本人曰く「なにか含みのある表情」)を耳にしたり目にすると過剰に腹が立ったり、気持ちがふさいだりしていましたが、それらは彼女の母親の言動を彷彿とさせるものだったのです。

もしくは、そのトラウマであるかもしれない体験があまりにも幼少のときに起きると、その体験をきちんと把握できる認知や感情面の発達の途上なので、自ずと「なんだかいやな気持ちがあるけど、どうしてだかはっきりしない」という状態になったりもします。

 

知人である精神分析医が、出来事との関連がはっきりしないような状態も当たり前に「フラッシュ・バック」と表現しているのを耳にしたとき、それもまた私の中でしっくり収まる感じがありました。フラッシュ・バックとはおしなべて過去のことがなんらかの形で再体験されることで、要は、今の何かしらは過去の体験とは切り離せないものだからです。

それからいうと認知行動療法でいうところの自動思考(いつも頭に浮かんでくる助けになってくれない考えのこと。たとえば「私はだれからも愛されない」とか「私は無能力者だ」など、時にコテンパなまでに自虐的な考えのことです)も、過去の多くの体験から引き出されたフラッシュ・バックで、この自動思考が出てくる理由に至るにはやっぱりどこから過去にあたるしかないときがあります。

 

PEはトラウマに対するとても強力な心理療法ですが、その限界もあります。プチ・フラッシュ・バック(と表現してみることにしました)には、時間をかけて丁寧に向き合った方が上手くいくことも多いのです。

決して焦らずに、そしてPEができそうとなったら決してひるまずに。

 

●子ども時代のトラウマ☞【複雑性PTSD】診断がつく、ということは治療法があるということです

●PEについて☞【モヤモヤした感じ】持続エクスポージャー療法の理論

●認知行動療法☞これもまた【認知行動療法】

 

こちらもどうぞ

●プチ・フラッシュ・バックの「怒り」もあります☞【堪忍袋】の中身、怒りと傷つき

●困っている対人関係はプチ・フラッシュ・バックなことがあります☞【複雑性PTSD】対人関係スキーマ、という悩ましい用語

 

ではまた!

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投稿: 飯田橋 サードプレイス

東京千代田区飯田橋にあるカウンセリングルーム、サードプレイスのブログです。

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