不明 のアバター

All posts by 飯田橋 サードプレイス

東京千代田区飯田橋にあるカウンセリングルーム、サードプレイスのブログです。

サードプレイスストレス

ここもまた、【サードプレイス】

こんにちは。

飯田橋のカウンセリング・オフィス、サードプレイスのナカヤマです。

 

緊急事態宣言が解除になったこともあり、久しぶりに床屋さんしてきました。

髪を切ってくれるのは、私と同い年のオオモリさんです。オオモリさんとは、もう20年近くのお付き合いになります。

オオモリさんはチョキチョキとハサミを動かしながら言いました。

「早くコロナに終息してもらわないとお店は大変ですよ」。

オオモリさんはこの日、ソーシャル・ディスタンシングのために、アシスタントさんをお休みさせて一人でお店を切り盛りしているのです。

 

「経営だって大変なんです」オオモリさんは手慣れた様子でカットを続けながら言いました。「宣言が解除になったからって、東京の感染者はそんなに減っていないし、これからだって今まで通りって訳にはいきませんよね」。こころなしか、今日のオオモリさんの頭にはアホ毛が目立っているようでした。

 

私が鏡ごしに「なかなかに油断のならない状況ですよね」と同意すると、オオモリさんもうなずいて、「ニュースでは若者の感染が増えているって批判もありますよね」と言いました。

確かにこのところ、そういう論調のニュースも増えているようです。昔から大人は「今どきの若い者はけしからん」的な批判をしたい生き物だからでしょうか。若者が集まっている映像にもっともらしい(なんだか意地悪な)コメントがつくこともあります。

 

でも、オオモリさんはチョキチョキしながらこう言いました「考えてみると、今どきの若者の人生って本当に大変だと思うんですよ」。

「311が起きて、原発は爆発するし、地球は温暖化するし、それで今度はコロナでしょ。そんなことってありますかね」。

 

確かにオオモリさんの言う通りなのです。今どきの若者にとって、人生は思わぬ試練の連続です。

 

私がそれらについてぼんやりと思いを馳せていると、オオモリさんは「私たちの若い頃なんて、本当にアホみたいに、痩せたぁいとか、目が大きくなりたぁいとか、サラサラの髪の毛になりたぁいとかそんなんばっかで、本当に、アホみたいでしたよね」と笑いました。

中学生の頃から彼氏がいたというリア充のオオモリさんと私とは比べるべくもありませんが、そう言われてみると、私の子ども時代だってまさに「アホみたい」でした。逆にいうと、アホみたいでいられるような平和な時代だったのです。

「だから」とオオモリさんは言いました「今の子どもや若者は、こんな大変な目にあっているんだから、親切にしてあげなくっちゃあ、ダメですよね。少し甘やかすくらいがちょうどいいですよ」。

 

私はオオモリさんのいう、「アホみたい」に笑いながらも、この思わぬセリフで、大人の女性の深いコンパッションに触れたような気持ちになっていました。

椅子はこの上なく座り心地が良く、オオモリさんの指先は優しく私の頭に触れていました。

 

ストレスに対処するにはいろんな方法があります。オオモリさんのように、ストレスフルな状況を共感的に理解することはその一つですが、それってなかなか難しい方法でもあるのです。

 

そうこうするうちに、マイタケのように散らかっていた私の頭は、マッシュルームのようにさっぱりしていました。

そして、私はちょっと愉快なような、あったかい気持ちのまま、「ではまた、来月」とオオモリさんと互いに手を振り合ってお店を出たのでした。

 

 

●ストレスをユーモアで対処する☞【感情調整】クリエイティブな気持ちの収め方

●ストレスと呼吸☞【トラウマと呼吸】身体を気持ちにフィードバックする

●ストレスと性行動☞【性欲】!【性欲】??

 

ではまた!

サードプレイス

 

サードプレイス複雑性PTSD読書療法

【複雑性PTSDの心理療法】

こんにちは。

飯田橋のカウンセリング・オフィス、サードプレイスのナカヤマです。

このブログにたどり着く検索ワードの中で一番多いのは「複雑性PTSD」です。

それは、複雑性PTSDに関する概念や治療法がまだそんなに普及してないので、多くの人が情報を求めているからだと思っています。

この度、複雑性PTSDに関する実証的な研究をもとにした治療について、詳しく書かれた本が星和書店から出版されました。

興味のある方はどうぞチェックしてみて下さいね。

『児童期虐待を生き延びた人々の治療–中断された人生のための精神療法』

こちらも参考にどうぞ

●複雑性PTSDのDOS症状に関わる☞【複雑性PTSD】スキルのトレーニング

●複雑性PTSDのトラウマ記憶に関わる二つのアプローチ☞NSTPE

サードプレイス

ストレスセルフケア感情調整

閉ざされていない世界

こんにちは。

すっかり静かになった街、飯田橋にあるカウンセリング・オフィス、サードプレイスのナカヤマです。

 

「お店もなんもみーんな閉まっちゃってるから、仕事もないし、外で散歩するか、家にいて本読んでます」

と、私のMac bookの画面越しにノリコさんは言いました。

 

ノリコさんはフランスに住んでいて、絵を描いたり、モノを作ったりして生活している60代の女性です。毎年夏には日本に帰ってきてサードプレイスに立ち寄られるのですが、今年は帰国を断念し、オンライン・カウンセリングでお話しすることになったのです。

ノリコさんの住んでいるところは、私たちよりも一足早く都市封鎖の憂き目にあっています。

彼女から学べることがきっとあるに違いありません。

 

「散歩と読書は、この時間を過ごすのにいい方法ですね」と私が頷いていると、ノリコさんは、

「朝起きたらまず、ウエストポーチに万歩計を入れるの。私毎日、レッチリのBy The WayのPVに出てくるタクシードライバーみたいな恰好しているんよ」と言って立ち上がり、ポーズを決めました。

見ると、白のタンクトップにヒョウ柄のサルエルパンツみたいなゆるめのズボンをはいて、腰に小ぶりなウエストポーチをつけているノリコさんがいます。

タクシー運転手の標準的な服装というものがあるとしたら、今ノリコさんがしている、ロック・バンドのPVの中のタクシー運転手の恰好は、それから相当かけ離れているものではないでしょうか。

 

「すごい、ですね」と私が、やや言葉を失い気味に、それでもなんとか感想めいたものを押し出すと、それを賛辞と受け取ったのかノリコさんはニッコリして、

「あと、こっちの人らはみんな、カミュの『ペスト』とか読んでるよ。この作品は新型コロナにあえぐ今の状況への警鐘となり得るとか言って」と、教えてくれました。

「日本でも『ペスト』や小松左京の『復活の日』なんかがメディアで話題になっていましたよ。人の考えることは同じですね」と、私が応じると、

「警鐘て」とノリコさんは、眉間にシワよよせて、(ノリコさんなりの)憂いを含んだようなため息をついて、言いました。

「警鐘て、『ジョーズ』の人食いサメを見て、すんごい怖い思いしたからって、ビーチに行く予定をキャンセルするかっていうと、しないじゃろ。ほんで、『13日の金曜日』とかのホラームービーで、イチャイチャしよるカップルがジェイソンに最初に殺されるからって、夜のキャンプ場でのイチャイチャやめるんかっていうと、やっぱりやめられるもんではないです」

いつものノリコさんらしい物言いに、私が思わずハハハと声をあげて笑うと、ノリコさんもウケケケと面白そうに笑いました。

あったかい空気が私たちを包んだように感じました。

 

すると、ノリコさんはちょっと言葉を切って真面目な顔付きになり、こういいました「私、ケッコンすることになりました」。

 

いささか突然の話の展開にたじろいだ私が「え、え、誰と、ですか?」と間の抜けた調子で問うと、ノリコさんはなんだかカタい表情のまま「病院のセンセイをやってる人で、今大変なんですけど、毎日毎日ずーっと飽きもせず私に電話しよるから、PACS(事実婚)してもいいかなって」と答えました。

 

早口で話すノリコさんの言葉の中にある、「センセイ」の最初の「セ」についた、お国言葉のアクセントの響きに、なんとも言えぬ優しさが滲み出ているように感じました。

ようやく事態を飲み込めた私が、居ずまいを正してお祝いを伝えると、ノリコさんはフッと息を吐いて、さっきよりも柔らかい声で「ありがとう」と言い、「なんでも聞いて」と大物芸能人みたいに椅子の背にもたれました。

 

それから、ノリコさんとセンセイとの出会いの場面から親密になるまでの軌跡、ライバルの出現や、プロポーズに至るまでのやりとり、ソウルメイトについて、人生の不思議さについて、つまりは、「恋バナ」満載のセッションを終えると、ノリコさんはキラキラした少女のような笑顔で、画面の向こうからバイバイと手を振ってくれました。

 

今となっては、レッチリのタクシードライバーの格好がとてもイカして見えました。

 

そしてそれは、たとえ不自由な環境の中にいても、人の心は自由でいられると思えた瞬間でもありました。

不安に閉ざされた世界であっても、私たちの心はちゃんと生きて、動いていて、ポジティブな気持ちを表現する力があります。

 

今日も確かに、ノリコさんに学ぶことがあった日でした。

 

 

こちらもどうぞ

●ノリコさんの感情調整☞【感情調整】クリエイティブな気持ちの収め方

●ノリコさんの読書術☞【批判的読書術】

●新しい試み☞【オンライン】カウンセリング

 

ではまた!

サードプレイス

 

 

 

サードプレイス

あたらしい【日常】

こんにちは。

飯田橋にあるカウンセリング・オフィス、サードプレイスのナカヤマです。

 

サードプレイスに休業要請は出されていませんが、今の状況では、私を含め多くの人々の接触の機会をなるべく減らすことが喫緊の課題ですので、4月の予約のほとんどをGW後に移動し、今のところ、必要・緊急、またはオンラインのセッションのみとなりました。

その結果、私にとってはまとまった休暇を取ったような、思わぬ状況になったのです。

 

腰痛があるため、散歩は欠かせません。朝起きて、天気が良ければ外に出て気の向くまま歩き回ります。

何しろ時間はたっぷりありますので、ご飯の支度は例えば、パスタを手打ちするところなんかからはじめます。そうすると料理に長い時間がかけられます。

ある日は、庭に伸びた雑草をなんとなく抜いてみたりします。

またある日は、伸びてきた自分の前髪を切ったり、白髪になった部分をヘナで染めてみたりします。

ご飯をゆっくり食べて、いつもはためておく洗い物もコマコマ片付けて、猫をあやしたり、漫画を読んだり、思いついてYouTubeの動画を見ながら一緒に動いて息をゼーハーさせていると、あっという間に夜になって眠くなります。

そうして私は殆ど頭を、脳みそを使うことなく一日を終えるのです。

時折、セッションの準備をしたり、送られてきた論文を読んだりもしますが、それらは膨大な日常に埋もれていくような感覚とともに流れていきます。

 

一方ニュースでは、毎日のように感染者や死者の数が更新され、医療体制が逼迫している様子が伝えられます。

医療機関では、例えば医療用マスクなどの基本的な装備さえ足りない状況だそうです。

多くの医師や看護師にも感染し、世界では沢山の死者が出ています。

今ここで、懸命にウィルスと闘っている当事者や医療関係者の人々には、本当に頭が下がるような思いで、言葉もありません。

 

そして、感染症に対する畏怖と自分の無力さに、心細い気持ちになります。

 

 

このような「あたらしい日常」をどう捉えたらいいのか、これにはなかなか慣れることができませんが、一日一日を、私なりにやり過ごしているところです。

 

サードプレイス

 

 

 

サードプレイスCBT-E心理療法

はじめての【摂食障害学会】

こんにちは。

飯田橋にあるカウンセリングオフィス、サードプレイスのナカヤマです。

 

話しは去年の秋頃、コハラ先生が「ナカヤマ先生、今度の摂食障害学会でCBT-Eの症例発表して下さい」といささかカジュアルに頼んできたことからはじまりました。

 

こういうのもなんですが、私は摂食障害に関しては門外漢で、どれくらいの門外漢かというと、過去コハラ先生から引き継いだ摂食障害の患者さんたちが、私の前からいつの間にかいなくなってしまうという超常現象を引き起こしているくらいの筋金入りの門外漢なのです。

でもコハラ先生はネアカなハッピーガールですので、そんなことは気にせず、むしろそういう初学者(私)がCBT-Eをやれていることをみんな(学会に来ている治療者)が知ったら、自分たちもやってみたいという勇気が出るはずなので、CBT-Eの宣伝と思って是非学会発表して下さいと言います。

「それに、ナカヤマ先生は英語もできますしね」とコハラ先生が言うのも、当日の発表スタイルがCBT-Eの開発者の一人であるザフラ先生に公開で症例検討してもらうからなのですが、これはまた多くの人々が勘違いしているところで、なぜか私は英語を話せるキャラなのです(そして、そもそもそれは大きな誤解なのです)。

 

でも競争の厳しいこの世界で、英語ができないとバレてしまうことは、職業人としては避けたいところです。

そこで私は自分の英語力についての謙遜はそこそこで切り上げ、オンラインの英語レッスンをはじめることにしました。一か月後、講師のザフラ先生と会うまでに少しでも英語のギャップを埋めようと思ったのです。50歳にもなってこんな付け焼き刃な学習をするとは思いませんでした。

 

オンラインレッスンの先生は優しそうな40代の女性でした。先生は私の趣味が読書であることを知ると、好きな作家を尋ねてきました。

私はちょっとばかり躊躇しました。実は、私のお気に入りの作家はジェーン・オースティンなのですが、なかなかその気持ちを分かち合える人に出会ってこなかったのです。しかし、思い切って打ち明けてみると、「そうなのね!私も大ファンなの」と驚きの答えが返ってきたのです。

そんなんで多くは語りませんが、ジェーン・オースティンで盛り上がった私は、ご機嫌な時を過ごし、学会までに学術関係の英語は1ミリも上達しませんでした。

 

当日発表するスライドも問題がありました。学会が翻訳の業者に依頼して仕上がってきたものは、Google翻訳の方がよっぽど気が利いていると思われるような出来だったのです。

でもこれは私の表現の仕方がマズいのです。英語に訳しやすい表現でスライドを作るべきでした。

そんなんでここでも多くを語りませんが、私は自分自身を責めながら、そしてGoogle翻訳の力を借りながら、発表ギリギリまでスライドの作り直しと翻訳をコテコテとする羽目になりました。

 

 

そして、学会当日は何度も確認した筈なのに、なぜか30分遅刻して、最寄りの駅につきました。

 

もう怪奇現象としかいいようがありません。私は駅から会場まで走りました。半年ぶりくらいにはいたパンプスでけつまづきながら走り、もんどり打って会場に駆け込んだときは、全身汗びっしょりでした。

 

しかしながら学会は、驚くほど上手くいきました。

 

英語に関して何も問題はありませんでした。東京で開業されている優秀なバイリンガルのサイコロジストが通訳に入ってくれたからです。その先生が、私の意を適切かつ正確に汲んで通訳してくれました。

そして、症例発表も素晴らしく上手くいきました。症例(彼女、とします)が歩んできた人生の軌跡や、治療の中での彼女の洞察力と回復力は、ザフラ先生を感動させたようです。

コハラ先生も、今回ナカヤマ先生に頼んだのは本当にタイムリーだった、と手放しで喜んでくれました。

 

私だけが、1ヶ月前からの取り越し苦労と当日のダッシュで疲労困憊していました。

 

私の人生は見当違いの努力や不安、うっかり間違いで満ち溢れていて、決して心休まる思いをすることがありませんが、セラピーだけはいつも何らかに形で報いてくれていると感じます。

感謝の念を込めて、私は彼女と自分におそろいのピンバッジを買いました。

摂食障害啓発のための、マゼンタリボンのバッジです。

 

 

そして昨日のことですが、東京に緊急事態宣言が発令されました。

 

今の状況から見ると、こんなはじめての摂食障害学会だって懐かしい「日常」でした。

 

 

●こちらもどうぞ

コハラ先生とCBT-Eを学ぶ☞【CBT-E】摂食障害のための認知行動療法

CBT-Eを実際やってみた☞【摂食障害のための心理療法】過食をストップさせる勢い

 

ではまた。

サードプレイス