こんにちは。
飯田橋のカウンセリングルーム、サードプレイスのナカヤマです。
季節が春から初夏に変わり、その装いも変化しています。
自然がみせる時の流れとは違って、トラウマは決してその姿を変えることがありません。それは、ひっかかり、棘、または傷となって私たちの心の中に同じようにありつづけます。
でも、そこから回復したいと思うとき、知っておくとそこに寄り添って安心できるような考え方があります。
ハーマンの「回復の段階」です。
ハーマンはその著書の『心的外傷と回復』の中で「トラウマの中核は無力化と孤立化だ」と言いました。
また「トラウマは伝染する」とも言っています。
このようにハーマンはトラウマの本質についてめっぽう的を射た表現をしてくる人なのです。
ハーマンのいうトラウマからの「回復の段階」は事故や災害などのシングル・トラウマのみではなくて、子ども時代の虐待やDV、戦争などのコンプレックス・トラウマをも想定しているものと考えてよいと思います。
子ども時代のトラウマを体験した人はしばしば、トラウマからの「回復」といわれても回復すべき健康だった時代がない、と嘆きます。すなわち、生まれてこの方、人間としてまっとうに扱われずに、自分らしくのびのびと人生を生きるという感覚を今まで一度も得ることができなかったのに、どこを目指して「回復」すればいいのか、という問題です。
ハーマンの「回復の段階」は元の人生、元の自分に戻ることを目指したものではありません。私たちがトラウマを乗り越え、ごく普通に生きていくために必要なことを提示してあるのです。著書の原題の”Recovery”という言葉からは、「回復を取り戻す(つかみ取る)」みたいな、もっと主体的なニュアンスが感じられます。もしかしたらそれは成長、と呼んだほうが適切なのかもしれません。
回復の段階は3つのパートに分けられていて、その最初の段階で目指すテーマは「安全」です。
この段階では、実際やることがたくさんあります。
自分の身体を休ませて気力や体力の充実をはかることや、他者、たとえば医療機関や地域の福祉センターに助けを求めたりすることで、現在の生活をより落ち着かせ、安定させることが必要です。トラウマ的な環境にいる人は主治医やソーシャルワーカーとともに、そこで身を守る防御計画やそこから出る計画を立てはじめます。薬物療法も助けになるかもしれません。
次の段階で向き合うものが「トラウマ記憶」です。
ここは、トラウマ焦点化心理療法がその役目を果たせる段階です。特別な心理療法でなくても、トラウマの体験について話したり考えたりする作業が、トラウマ記憶をきちんと整理して「消化」するためには必要です。
三番目の段階で主に扱うのが「人との新たな関係」です。
トラウマから生じた人への不信感や人と関わるときの不安感や恐怖感は、人間関係の中で自分をオープンにしたり、リラックスさせることを邪魔しています。その結果、人の間にいて、孤独感を持つことがあるでしょう。人との新たな関係性を構築するために、アサーショントレーニングや、STAIRの実践が役に立てるでしょう。
臨床の中ではこのハーマンの「回復の段階」という考え方は地図のような役目を果たしています。クライアントとセラピストがともにこの地図をもって進んでいくというイメージをしてみてください。そして、大切なのは、回復はこれらの段階が階段状に積みあがっていくものではなくて、らせん状にぐるぐると徐々に上へいく、ということです。
目の前のことをひとつづつこなしながら、一歩一歩あるいていくといつのまにかずいぶんと高いところまで登っているものです。
それを知っていれば、決して回復を焦る必要はありません。
ではまた。
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