こんにちは。
飯田橋のカウンセリングオフィス、サードプレイスのナカヤマです。
あまり知られていないことかもしれませんが、多くのトラウマ焦点化心理療法では呼吸法の練習も行います。
PE(持続エクスポージャー療法)では呼吸再調整法、TF-CBT(子どものためのトラウマ焦点化心理療法)では腹式呼吸、STAR(複雑性PTSDのためのスキルトレーニング)では集中呼吸法、と呼ばれていて、名称はそれぞれ違うものの、目的は同じと言っていいでしょう。
それは呼吸によって不安や恐怖を自分で和らげる、ということです。
過去のことを思い出したり、フラッシュバックしたり、悪夢を見た時は、心臓がドキドキしたり、息が浅くなっています。手足が冷たくなっている感覚に気が付く人もいます。身体はその時、危険に対処するためにいわゆる交感神経系が優位になり、血中の酸素やアドレナリンを増やして、いつでも逃げられるように(長いこと走ることができるように、そして出血した場合はその量を少なく抑えられるように)備えているわけです。
人によってはこのような状況の時をさして、「タイムマシーンで過去に引き戻されたような」「その時にタイムスリップでもしたような」感覚、と言ったりします。
でも、この状態は、なんというか身体の「やりすぎな状態」なのです。
例えばタイムスリップな身体の感じは、家の中や、学校の教室の中、移動している電車の中などで突然起こったりします。でも、それらは比較的安全な状況で、言ってみれば穏やかな「日常生活」の場面でのことで、長いこと出血を抑えながら走って逃げたりする必要が生じる恐れはないのです、ほとんどの場合。
そこで、身体に「今はさほど危なくないし、大丈夫なんだよ」というのを伝えてあげるために、呼吸法を行います。
危険だったり、緊張が強いられている状況では、酸素をなるべく多く吸い込むために、呼吸は浅く、そして早くなります。安全な状況ではその反対です。呼吸は吐きだされ、深く、ゆっくりしたものになっています。したがって、PEの呼吸調再整法でも、TF-CBTの腹式呼吸でも、そしてSTAIRの集中呼吸法でも、すべからく、その安全な状況の時の呼吸の様子を倣って、ゆっくりとした、深い呼吸ができるように練習します。
そうして息を吐くことに意識して、ゆっくりと深い呼吸を頑張って続けていると、不思議なことが起こります。「安心感」てものがゆるゆると感じられてくるのです。
それは、身体の状態がココロにフィードバックされてくるのを実感することのできる素晴らしい瞬間でもあります。
こんなに良い効果をもった呼吸法ですが、治療が進むにつれ、記憶が整理されたり、洞察が進んで、過去のことを思い出したり、フラッシュバックや悪夢自体が減ってくるので、治療の中盤や後半にはそんなに話題になることはありません。特にPEの中での呼吸法は、本格的に回復するまでの松葉杖みたいな役割です。
自転車でいえば補助輪といってもいいかもしれません。
いらなくなったら捨ててもいいような、大事にとっとく人もたまにはいるかもしれないくらいの、位置づけです。
それでも、治療の最終セッションで、「呼吸法が何よりも役に立っています」と言う人はいて、それは呼吸法で自分の身体や心をコントロールできた、という心地良い感覚が得られたということに他ならないのですが、治療の中で得られた他の様々な成果をさておき、呼吸法が一番て、ってPEセラピストとしてはちょっとずっこける場面でもあります。
ずっこけながらも、共に喜びあっているのですが。
ではまた!