カテゴリー: 複雑性PTSD

トラウマ複雑性PTSDSTAIR/NST心理療法

【複雑性PTSD】スキルのトレーニング

こんにちは。

飯田橋のカウンセリングルーム、サードプレイスのナカヤマです。

 

現在のところ、複雑性PTSDのための構造化された心理療法として、STAIR+NSTが挙げられます。

構造化された、とはパッケージになった、という意味です。パッケージにする利点は、統制のとれた研究・調査ができるので、セラピストの質に関わらず、その心理療法がもつ純粋な治療効果の証拠(エビデンス)が検証できる点にあります。

STAIR+NSTは開発者のクロワトル先生自身が言っているように、DBT(境界性人格障害のための心理療法)とPE(PTSDのための心理療法)のハイブリッド(簡易版、もしくはいいとこどり)です。前半のSTAIRでは感情調整や対人関係への介入を行い、後半のNSTでトラウマ記憶にフォーカスを当てます。

STAIRはSkills Training in Affect and Interpersonal Regulation(感情と対人関係の調整のためのスキルトレーニング)の略であり、日常の生活をよりよく生きるために、スキルのトレーニング(練習)を強調しています。

心理療法、といわれると対話によって洞察を促すイメージがありますが、STAIRは(DBTやPEもそうですが)色々考えて頭を悩ませるよりもまず行動してみて、練習してみることを大切にしているのです。

その理由の一つには、複雑性PTSDの症状の多くは、長びくトラウマの状況から生き延びるための「癖」であるといってもいいことにあります。この癖、というのは頭ではわかっていてもついついやってしまう行動パターンのことを指します。

例えば、何度も気持ちが混乱させられるような体験があったとき、その衝撃から自分の心を守るために感情をシャットダウンさせることがあります。また、殴られたり、罵られたりなどの不当な仕打ちをうけたときに、それ以上ダメージを食い止めるために(つまり死なないように)黙って耐える、という行動があります。これらの自己防衛的な行動を癖にしてしまうようにすると、すばやい実行が可能になります。死ぬか生きるかという状況の中にあって、迅速に行動することは大切なことです。

このように感情を麻痺させたり、自己主張をしない、という癖はトラウマを生き延びるためには絶対に必要だったわけですが、大人になってから(またはトラウマ的状況から抜けた後に)この癖が続いているといろいろ不具合が出てきます。

友だちと遊びにいったり、職場で話していても、自分の感情が麻痺したままだと、楽しさや人とのつながりを十分に感じられません。そうなると、疎外感を感じたり、自分は人とは違っているという感覚が付きまといます。

職場の上司からパワハラ的な扱いを受けていても適切に自己主張したり、周りに助けを求めるなどの行動が取れないとしたら、さらに被害を受け続けるかもしれません。往々にして「トラウマの再演」と呼ばれるものはこうして起こるのです。

 

STAIRでは子ども時代からの感情や対人関係の持ち方のパターンを改めてみつけていって、その上で、より柔軟な行動がとれるように具体的な練習をしていきます。

感情に気付いて受け止める練習だったり、他者と対等に話したりする、適切に自己表現する練習です。もしかしたら、それは普通の人なら簡単に見えるかもしれないことでも、トラウマとつながっているパターンと違うことをするのは、当人にとってはすごくチャレンジなことです。

でも、新しいスキルが上手になってくるにつれて、それが身について、トラウマに支配されていない、自分の人生を生きている感覚が得られてくるのです。

練習してみる価値はありそうだと思いませんか。

 

●STAIRについてもっと☞【複雑性PTSD】STAIR誕生!【感情調整と対人関係のためのスキルトレーニング】

●STAIRの中の感情調整について☞【STAIR】感情調整は感情の役割を知ることからはじまります

●STAIRの中の対人関係スキーマについて☞【複雑性PTSD】対人関係スキーマ、という悩ましい用語

こちらもどうぞ

●怒りについて感情調整☞【感情調整】怒りそのものなような、そのようにみえるような

 

 

ではまた!

http://www.office-thirdplace.com/

 

トラウマ複雑性PTSD感情調整

【感情調整】感情が出すぎる人ではなく、出ない人の話

こんにちは。

飯田橋のカウンセリングルーム、サードプレイスのナカヤマです。

 

ほどほどに、とか中庸に、とか平凡にっていうことほど、難しいことはありません。

感情だってそうです。

出しすぎて周りから(今風にいうと)ドン引きされたり、出さなさすぎて「何考えてるかわからない」と、ある意味、いわれのないそしりを受けたり、本当に難しいのです。

怒りの感情が出すぎて悩んでいる人やそれに困っている周りの人々のために、縁側に置け、とかタイムをとれと言って一緒に練習をすることがありますが、その反対に、感情を感じないとか感じづらい、という人のためにできることもたくさんあります。

というより、セラピーの中では圧倒的にそういう人の方が多くて、みな人知れず苦しんでいます。

 

感情が出せないとか、それ以前に感じることができないというときは、それぞれにもっともな理由があります。

 

例えば、DVの被害やトラウマ体験の中、感情を文字通り殺すことで生き延びる人たちがいます。

 

また、子ども時代の育ちの過程で適切に感情を感じることが出来なかった人たちがいます。

子どもは自分自身の感情について、周囲の助けを借りながら適切に気が付いたり、表現することを学びますが、その機会が得られないと、感情体験は混乱したものになりがちです。そういったときに子どもは、感情を完全にシャットアウトするか、または慢性的に不安を抱える状態になるのです(くもり空が何となく不吉なように、感情がぼんやりしているのはなんとなく不安ってことです)。

両親の言い合いや喧嘩を見て、怒りの感情のような極端な感情の表出は危険だ、と学ぶ子どももいます。

 

そうして、トラウマ的な出来事が終わったあとや、子どもが成長して大人になってからも感情に関する、このような影響は長く続きます。

恐怖とか怒りなどの不快な感情だけが感じないのならまだましかもしれませんが、嬉しいとか楽しい、愛情といったポジティブな気持ちも感じにくくなっているのが辛いところです。人間はそんなに器用じゃないのです。

認知行動療法の一つであるSTAIRでは感情の気づき方、持ち方、表現の仕方、そして耐え方についてひとつづつ順番に学んでいくことができます。子ども時代に学ぶところを大人になってから新たに学んでいく感じです。また大人になってからのトラウマ体験のせいで一回失われてしまった感情の持ち方をもう一度学びなおすという感じでもあります。

 

辛い感情に気が付いて、それを自分で和らげたり、または耐えられるようになるのも大事なのですが、心地良い気持ちに気が付いていくプロセスはさらに大切です。

日々の生活の一つ一つに感情が伴うと、生き生きとした充実感が得られます。地に足のついた感覚、と表現する人もいます。

感情についてわかると人生についてもちょっとわかった感じになるかもしれません。つまり、人生は自分の心地よい感情が示す方向に向かっていけば間違いないのです。

それって感情が持つすごい効果だと思います。

 

ではまた。

http://www.office-thirdplace.com/

 

 

トラウマ複雑性PTSDSTAIR/NST

【複雑性PTSD】診断がつく、ということは治療法があるということです

こんにちは。

飯田橋のカウンセリングルーム、サードプレイスのナカヤマです。

 

どんな種類のトラウマでもその後の症状は同じだからくくってしまえ、といささか乱暴にくくったところからPTSD症状の話はじまりました。

でもどこの世界にも繊細な感覚に誠実に向き合う人はいるものです。

自動車事故と児童虐待は違う、という至極もっともな直観的な手がかりを大切にして、その病態の観察をし記述を行ってきた臨床家がいました。

 

今では、自動車事故や犯罪被害などの比較的短い期間の単回の被害の「単回性トラウマ」に対し、児童虐待やDV、戦争体験など、月や年単位の比較的長期間に繰り返し起きるものを「長期・反復性トラウマ」と呼び、それらを分けて論じることが普通になってきています。

ジュディス・ハーマンやレノア・テア、ヴァン・デア・コークが、この長期・反復性のトラウマに対して、それぞれ「複雑型PTSD」、「Ⅱ型トラウマ」、「DESNOS」として臨床像をまとめています。

そして今のところ、長期・反復性のトラウマはその後の自己意識の持ち方や感情調整、対人関係などに影響を及ぼすことがわかっています。

 

現在、WHO(世界保健機関)が作成する疾患や死亡に関する統計で、診断マニュアルとして使われるICD(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problem)の最新版(第11版)の草稿では、米国の心理学者のマリー・クロワトル先生を中心としたチームが長期・反復性のトラウマ体験からの症状群を複雑性PTSDとして、項目の整理と執筆を行っています。

米国の精神医学会の診断マニュアルのDSM-Ⅴでは、長期・反復型のトラウマ体験に関する疾患の記載は(さまざまな議論の末)見送られたので、ICD‐11での掲載が最初のものになると思われます。

 

では複雑性PTSDの症状にはどんなものがあるのでしょうか。

それらはPTSD症状の侵入症状、過覚醒症状、回避症状、認知や気分のネガティブな変化といった4つの症状に、さらに認知や意識の変化に関する項目が加えられたものです(まだ確定ではありませんが感情調整や対人関係の困難、が主症状になると考えられています)。

具体的には、自分に関して「自分は他の人とは違うと感じる」「人よりも劣っている」ような感覚、感情に関して「自分がどんな感情を持っているのかはっきりしない」または「感情に圧倒されてコントロールできないので怖い」、対人関係では「多くの人は信用できない」または「本当の私のことを知ったら誰も私のことを大切にはしてくれない」、などです。

子どもの頃からの虐待やDVを体験してきた多くの患者さんたちは、この複雑性PTSDの症状の説明を聞くと、例えば、「(これらの症状は)自分の性格だと思っていた」「(人間関係が難しいのは)自分が悪いと思ってた」のようにいいます。

 

しかしそれらは実際、生来の性格ではなく、複雑性PTSDの症状であることが明らかになってきました。そして、症状の改善を目的としたSTAIR+NSTという心理療法がクロワトル先生のチームによって開発されています。

STAIR(Skills Training in Affective and Interpersonal Regulation)とは感情と対人関係にスポットを当てた認知行動療法の一つで、NST(Narrative Story Telling)は、通常STAIRが終了してから行うパートで、トラウマ記憶に焦点を当てたエクスポージャー(PEをモデファイして作ったそうです)です。

 

多くの人々がトラウマからの影響からくる症状を、自分の生まれつきの素質や性格とせいだと思いこんでいます。

自分のせいだ、と思ってきたいわゆる「生きづらさ」が症状であって、それに対する治療法があると知ったときの安ど感はどれほどのものでしょうか。

それらは対処できるものになったのです。

ではまた。

●STAIR /NSTの本が出ます☞複雑性PTSDの心理療法

●複雑性PTSDの診断基準が変わりました(2019年2月)☞【複雑性PTSD】のDSO症状のことなど、いろいろ

 

●対人関係の源☞【STAIR】感情調整からの、対人関係

●STAIR/NSTについてもうちょっと詳しく☞【複雑性PTSD】スキルのトレーニング

●「人と違った感じ」はどこからくるのか☞【複雑性PTSD】人と違う感じ

こちらもどうぞ

●アダルトチルドレンとの違い☞【複雑性PTSD】アダルト・チルドレンとどう違うのか

●感情調整についてさらに☞【STAIR】感情調整は感情の役割を知ることからはじまります

●対人関係の困難についてもっと☞【複雑性PTSD】対人関係スキーマ、という悩ましい用語

●『毒になる親』の効能☞【複雑性PTSD】相手に対する怒りを持つことを許してみる

●インナーチャイルドの話し☞【インナーチャイルド】の育て方、または感情調整の秘訣

 

http://www.office-thirdplace.com