カテゴリー: CBT-E

サードプレイスCBT-E心理療法

はじめての【摂食障害学会】

こんにちは。

飯田橋にあるカウンセリングオフィス、サードプレイスのナカヤマです。

 

話しは去年の秋頃、コハラ先生が「ナカヤマ先生、今度の摂食障害学会でCBT-Eの症例発表して下さい」といささかカジュアルに頼んできたことからはじまりました。

 

こういうのもなんですが、私は摂食障害に関しては門外漢で、どれくらいの門外漢かというと、過去コハラ先生から引き継いだ摂食障害の患者さんたちが、私の前からいつの間にかいなくなってしまうという超常現象を引き起こしているくらいの筋金入りの門外漢なのです。

でもコハラ先生はネアカなハッピーガールですので、そんなことは気にせず、むしろそういう初学者(私)がCBT-Eをやれていることをみんな(学会に来ている治療者)が知ったら、自分たちもやってみたいという勇気が出るはずなので、CBT-Eの宣伝と思って是非学会発表して下さいと言います。

「それに、ナカヤマ先生は英語もできますしね」とコハラ先生が言うのも、当日の発表スタイルがCBT-Eの開発者の一人であるザフラ先生に公開で症例検討してもらうからなのですが、これはまた多くの人々が勘違いしているところで、なぜか私は英語を話せるキャラなのです(そして、そもそもそれは大きな誤解なのです)。

 

でも競争の厳しいこの世界で、英語ができないとバレてしまうことは、職業人としては避けたいところです。

そこで私は自分の英語力についての謙遜はそこそこで切り上げ、オンラインの英語レッスンをはじめることにしました。一か月後、講師のザフラ先生と会うまでに少しでも英語のギャップを埋めようと思ったのです。50歳にもなってこんな付け焼き刃な学習をするとは思いませんでした。

 

オンラインレッスンの先生は優しそうな40代の女性でした。先生は私の趣味が読書であることを知ると、好きな作家を尋ねてきました。

私はちょっとばかり躊躇しました。実は、私のお気に入りの作家はジェーン・オースティンなのですが、なかなかその気持ちを分かち合える人に出会ってこなかったのです。しかし、思い切って打ち明けてみると、「そうなのね!私も大ファンなの」と驚きの答えが返ってきたのです。

そんなんで多くは語りませんが、ジェーン・オースティンで盛り上がった私は、ご機嫌な時を過ごし、学会までに学術関係の英語は1ミリも上達しませんでした。

 

当日発表するスライドも問題がありました。学会が翻訳の業者に依頼して仕上がってきたものは、Google翻訳の方がよっぽど気が利いていると思われるような出来だったのです。

でもこれは私の表現の仕方がマズいのです。英語に訳しやすい表現でスライドを作るべきでした。

そんなんでここでも多くを語りませんが、私は自分自身を責めながら、そしてGoogle翻訳の力を借りながら、発表ギリギリまでスライドの作り直しと翻訳をコテコテとする羽目になりました。

 

 

そして、学会当日は何度も確認した筈なのに、なぜか30分遅刻して、最寄りの駅につきました。

 

もう怪奇現象としかいいようがありません。私は駅から会場まで走りました。半年ぶりくらいにはいたパンプスでけつまづきながら走り、もんどり打って会場に駆け込んだときは、全身汗びっしょりでした。

 

しかしながら学会は、驚くほど上手くいきました。

 

英語に関して何も問題はありませんでした。東京で開業されている優秀なバイリンガルのサイコロジストが通訳に入ってくれたからです。その先生が、私の意を適切かつ正確に汲んで通訳してくれました。

そして、症例発表も素晴らしく上手くいきました。症例(彼女、とします)が歩んできた人生の軌跡や、治療の中での彼女の洞察力と回復力は、ザフラ先生を感動させたようです。

コハラ先生も、今回ナカヤマ先生に頼んだのは本当にタイムリーだった、と手放しで喜んでくれました。

 

私だけが、1ヶ月前からの取り越し苦労と当日のダッシュで疲労困憊していました。

 

私の人生は見当違いの努力や不安、うっかり間違いで満ち溢れていて、決して心休まる思いをすることがありませんが、セラピーだけはいつも何らかに形で報いてくれていると感じます。

感謝の念を込めて、私は彼女と自分におそろいのピンバッジを買いました。

摂食障害啓発のための、マゼンタリボンのバッジです。

 

 

そして昨日のことですが、東京に緊急事態宣言が発令されました。

 

今の状況から見ると、こんなはじめての摂食障害学会だって懐かしい「日常」でした。

 

 

●こちらもどうぞ

コハラ先生とCBT-Eを学ぶ☞【CBT-E】摂食障害のための認知行動療法

CBT-Eを実際やってみた☞【摂食障害のための心理療法】過食をストップさせる勢い

 

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サードプレイス

 

 

サードプレイスCBT-E心理療法

【摂食障害のための心理療法】過食をストップさせる勢い

こんにちは。

飯田橋のカウンセリングオフィス、サードプレイスのナカヤマです。

サードプレイスで摂食障害のための認知行動療法、CBT-Eをはじめて約一ヶ月が経ちました。この一ヶ月間で、実に20年以上摂食障害に悩んでいた患者さんの「過食エピソード」がなくなってしまいました。

これは本当に、本当にすごいことなのです。

「過食エピソード」とは、しばしば大量の食べ物を食べることで、食べている間は自分でそれをコントロールできないような感じ、例えば、満腹で苦しくなっても食べることをやめることができないようなことで、その後、大量の食物摂取と帳尻を合わすため、嘔吐や下剤使用、過剰な運動をする人がいます。

過食エピソードは摂食障害の患者さんの悩みと苦痛のタネであり、これをきっぱりとなくすのは今まで至難の技とされてきました。それは一進一退を繰り返し、年単位でみると改善してきたかな・・・という状態で、果たして治療が効いているのか、それとも患者さんの人格的な成長によってそれが成し遂げられているのか判然としなかったくらいなのです。

CBT-Eをはじめてみて感じたことですが、これは普通のいわゆる日本で普及している認知行動療法(Cognitive Behavior therapy :CBT)とはずいぶんと違うなってことです。

ここで説明しておくと、CBTは、本来は様々な技法の総称ですが、日本ではしばしばアーロン・ベックの認知療法を指しています(保険適用にもなっています)。認知とは「ものの受け取り方」や「考え方」という意味であり、アーロン・ベックのCBTでは、自動思考と呼ばれる、ネガティブな気持ちを引き起こすような認知の歪みを修正し、さらにスキーマと呼ばれる捉え方の根底的な部分にも焦点を当ててうつや不安を改善していきます。

CBTとCBT-Eの違いは、例えば、「自転車に乗れるようになる」という目的が同じでも、そのアプローチの仕方です。

CBTアプローチでは、患者さんとセラピストはまずは自転車を目の前に置き、腰を据えて、「自転車に乗ろうとする時にどんな気持ちになるか」的な会議を開きます。患者さんが弱気になって「自分にはとても無理だ」みたいなことを言い出すので、セラピストは「その頭にかすめている(弱気な)考えは、自動思考かもしれませんね」とさりげなく伝え、「その考えに根拠はあるのですか」「それって本当なのですか」などと毅然と質問することで、患者さんが今まで当たり前と思っていた自分に対する認識に改めて目を向け、考え直しができるよう促します。また自転車を前にした患者さんの緊張を和らげるために、リラクゼーション法を実施したりもします。そんなことを続けていると、そのうちに患者さんも自分の過去の成功体験を思い出したりして「今まで難しいって思ってきたことも実現してきた、だからもしかしたら自転車も練習すれば乗れるようになるかもしれない」みたいな当たり前な考え方ができるようになってきて、前向きな気持ちにもなってくるものです。そうすればいよいよ練習がはじまります。セラピストが実際に乗って見せてそのコツを教えたりすることもあります。そのようにして練習を重ね、だんだん上手に乗れるようになるのです。

CBT-Eアプローチでは、セラピストはいきなり自転車を持って患者さんの前にあらわれます。そして「さぁさぁ乗ってみなさい」とまだ乗れるかどうか半信半疑の患者さんを半ば強引に乗せて後ろを支えながら「さぁ、こいでみましょう!」と励まします。患者さんがオソルオソルこぎ出すと同時にセラピストも後ろを支えながら駆け出して「ハンドルをまっすぐ!」とか「前を向いて!」とか「とってもいい調子ですよ」などと声をかけながら押します。患者さんが途中で「こんなの無理かもしれません」と弱音を吐いても「ちゃんとできてますよ、もっとこいで!」「頑張りましょう!」と走り続けます。

この「勢い」で患者さんはあっという間に自転車が乗れるようになるのです。

CBT-Eを開発したフェアバーン先生は「成功のコツは最初の勢いのせて、上手にはじめること」と話しています。

CBT-Eは全20セッションです。1ヶ月で8セッション終えますが、もう自転車に乗れるようになった(過食エピソードがなくなった)ので、これからの12セッションはすこしテンポがゆっくり目になります。

患者さんと共に、ひきつづき頑張りたいと思います。

●摂食障害のための認知行動療法、CBT-Eとの出会い☞こちら

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サードプレイス

サードプレイスストレスCBT-E心理療法

【CBT-E】摂食障害のための認知行動療法

こんにちは。

飯田橋のカウンセリングオフィス、サードプレイスのナカヤマです。

 

先週の日曜日、久しぶりにすごいものを習ってしまいました。

摂食障害のための認知行動療法、CBT-Eです。

CBT-EのEは(当初浅はかにもそう思った)EatingとかのEではなくて、EnhancedのEです。その名の通り、摂食障害にEnhanced:強化した、特化した認知行動療法です。

実は、日本では長らく摂食障害は心理療法では治らない、とも言われていて、摂食障害への対応は主に内科の医師による入院加療や栄養士による栄養指導が柱となっています。医療的なケアの中心は低体重の患者さんで、健康体重まで戻すことで、低体重が引き起こす身体的なリスクを減らすことを目的としています。しかし、体重が戻っても、摂食障害の考え方や行動様式は、その後も続き、苦痛を感じている人は少なくなりません。

医療的なケアの後や極端な低体重ではない人々に対しては、摂食障害の自助グループ活動に一定の効果が報告されています。自助グループでは、自分が感じている苦痛は実は症状に共通のもので、多くの人も同じように悩んでいると知ることや、過食や嘔吐などをしないように互いに励ましあい、支えあうことができるからです。

これまでどうして摂食障害になるのか、その疾病の原因みたいなものがあやふやで、原因があやふやな時には担ぎ出される例のあの考え方、「親の育て方が悪い」「母原病」みたいな考え方も医療業界では根強く、医師や看護師に怒られて自責の念にとらわれる母親たちに対しても、私は心を痛めてもいたのですが、CBT-Eでは、病の原因論とは全く違う切り口で摂食障害に対処するところが、すごいもの、という所以でもあります。

この心理療法では、いわゆる摂食障害の人が、体重や体形にこだわるあまり、それらをコントロールすることに自分の人生の時間の大部分を費やしている、ということを問題の中心に据え、そのこだわりを維持する様々な行動や生活の様式、例えばボディイメージの問題や自分に課した食事のルール、ストレスな出来事やネガティブな感情などをターゲットに据えて、きっかり20回のセッションで取り扱っていきます。

そして、このセラピーを受けた三分の二以上の人に効果があった、というエビデンスも示されています。

私はCBTには熟練しているといっていいものの、摂食障害というテーマに関しては経験の浅いセラピストです。でも研修会では摂食障害の専門家であるコハラ先生(仮名です)とお隣同士の席だったものですから、わからないところをいろいろと教えてもらい、とても楽しく学べました。

例えば、テキストに摂食障害の人のよくみられるルールとして「一緒にいる人より多く食べない」というのが書いてあったりして、なんのこっちゃらと思ってコハラ先生に聞くと、「ああ、それは例えば、たまたまその時一緒に食事している友人や家族なんかと比べて、その人よりも自分の食事の量を少なくするっていう、摂食障害の患者さんにありがちな独自のルールのことなんですよ」って教えてもらい、なるほどそうか、と思ったものでした。

コハラ先生は長らく摂食障害の臨床をされていて、現在は日本におけるCBT-Eの効果研究もされているのですが、研修会では改めてこのセラピーが「よくできてるわぁ」と感心していました。そして隣で私も「本当、よくできてるわぁ」と頷いていたのでした。

早速、このセラピーに協力してくれそうな患者さんもみつかり、サードプレイスで新しい臨床がはじまりそうな予感に、わくわくしています。

 

CBT-E後日談☞【摂食障害のための心理療法】過食をストップさせる勢い

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