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複雑性PTSDPOWERSTAIR/NST心理療法

【シャバ】と【ムショ】のあいだ

こんにちは。

飯田橋のカウンセリングオフィス、サードプレイスのナカヤマです。

 

大学病院で働いていたころ、グループセラピー(病院では医師の指導のもと行われる「集団精神療法」のことを指します)は心理の仕事の一つでもありました。グループセラピーは保険が適用されるので、患者さんの費用負担が少ない上に、複数の人々に一気に心理教育を行えるので、大勢の患者さんを抱える大学病院にとっては良いことだらけなプログラムだったと思います。

でも、みなさんは既にお察しかもしれませんが、私自身は、どうにも集団というものは苦手なのです。子どもの頃から教室につめられて席につき、授業を聞いているのは、窮屈だし退屈、と感じていました。

そして「窮屈でも退屈でもないグループセラピー」を行うとなると、様々な工夫やファシリテーター(グループを運営するセラピストのことをこう呼びます)としての研鑚、そのためのお金や時間も必要で、心理士の薄給にとても見合うものではありませんでした。

それでも私がグループセラピーを実施していた、というより、むしろ当時、病院の他の誰よりもマニアックに取り組んでいたのは、やはりそのメリットが大きいものだったからです。良く構成されたグループでは、自分自身についてより深いレベルで(腹の底から)理解することができます。それは心理療法の1回や2回のセッションとは比較にならないほどのレベルです。

病院でのグループセラピーは、子どもの頃の虐待やDVなどのトラウマを抱えた女性を対象にしたプログラムでした。ざっと延べにして800人以上の方が参加してくださったと思います。

そんな風に10年以上にわたって私は、STAIRを基盤とした、複雑性PTSDのためのグループセラピーをコツコツと作り、実施し、改変し、また実施し、そしてまた改変し、というのを繰り返してきました。グループの名前もつけました。それで、ずいぶんと素晴らしいグループセラピーができたなぁ、これはどこに行ってもそうそうあるものじゃないなぁ、と少し感動しかけたところで、病院がなくなってしまい、そのグループセラピーは私のUSBのデータとしてしか存在しなくなりました。幻のグループになったのです。

 

USBデータとしてのグループセラピーが2年ほど続いていたある日、ある縁に見いだされて全く新しい場所でグループを開くことになりました。

刑務所の中です。

そして、グループの参加者達は男性受刑者でした。

受刑者の人々は、子どもの頃の虐待やネグレクト、その他のトラウマの体験がある人が少なくないということは研究でも知られています。そして、子どもの頃のトラウマ的な出来事は、感情のコントロールや、対人関係の困難を引き起こします。

グループセラピーの中でも、受刑者の人々は、怒りのコントロールが難しかったり、そもそも「感情」がわからないということや、相手から大切にされるような関係が作りにくい、ということが明らかになりました。

週に1回、受刑者たちは刑務所での作業を中断し、グループセラピーのお部屋に連行されてきます。同じ日に私は外の世界から刑務所を訪ね、同じくグループセラピーのお部屋まで案内されます。そのお部屋は私とみんなが出会う、丁度「シャバ」と「ムショ」の間のようなところなのです。そこで私たちは、刑務官に監視され(見守られ)ながら、自分の感情や考えを言葉にして自由に表現することが許されています。

 

そして、全15回のグループセラピーが10回目を超え、はじめのうちは気が張っていた私のココロにちょっとした変化が起きています。というのも、ある気持ちがわいてきていることに気がついたからです。このグループセラピーが終わって、みんなとお別れすることをどうやら私は惜しんでいるようなのです。

刑務所のグループセラピーで出会ったのは、こういうこと(つまり、子どもの頃のトラウマがいる大人になってからも影響しているということ)を学ぶのが人生で初めて、という人々でした。今までこのことについて教えてくれた人は誰もいませんでした。

けれども、みんなは本当に真剣にグループに関わって、そこでそれぞれが、自分自身に関する驚くような洞察や、気づきを語っています。

 

このグループセラピーの名前は、POWER(Practice Of Wisdom, Emotion and Relationship)です。

POWERがシャバに出た後もみんなの「力」になることを願ってやみません。

 

●子ども時代のトラウマの核☞【STAIR】感情調整からの、対人関係

●STAIRについて☞【複雑性PTSD】STAIR誕生!【感情調整と対人関係のためのスキルトレーニング】

●複雑性PTSDについて☞【複雑性PTSD】診断がつく、ということは治療法があるということです

 

 

ではまた!

サードプレイス